【メッセージ】「ベートーヴェン第九に寄せて」が指揮者・阿部加奈子より届きました!

8月1日(土)15:00より「真夏の第九こうとう2015」の演奏会が開催されます。
まもなくパリから帰国する阿部加奈子よりメッセージ「ベートーヴェン第九に寄せて」が届きました!
公演への期待が高まりますね!良いお席はお早めに!
(ティアラこうとうチケットサービス03-5624-3333)

阿部加奈子_第九公演に寄せて(0705)


みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

第九公演まで1ヶ月を切りました。私も間もなくパリを旅立ち、日本へ戻ります。そして、来週から第九の合唱リハに参加させていただきます。いまから公演が楽しみで仕方がありません。

さて、この数ヶ月、私は第九のオーケストラ・スタディをしておりました。もともと作曲を専攻していた私にとって、改めて、ベートーヴェンの音楽と向き合うと、そこに渦巻く音楽的・思想的アイディアの斬新性に唸らされます。そして、数在る音素材の中から「最もシンプルで且つ展開出来得るポテンシャルを大きく秘めたモチーフ」を厳選し、それらを用い、音の有機物を構築していく様に、感嘆するばかりです。

第九の4部構成はまさに物語、ベートーヴェンの人生観の結集であると思います。第1楽章は「人間の煩悩の世界」、第2楽章は「悪魔的な世界」、第3楽章は「そうしたものを一切画した静謐(せいひつ)な世界」、第4楽章は「我々の目指すのは、そんなことよりももっと宇宙的な愛に満ちた世界なんだ!という宣言」なのです。この特に第4楽章は私自身が目指している人生観と共鳴するものがあります。

一方で、指揮者として、楽譜通り正確に演奏するという立場で、頭の中で音楽を鳴らすと、「楽譜に忠実に」という言葉に対する解釈も様々だということに段々と気づき始めました。例えば、作曲家が書いたテンポ通りに演奏をすると、作曲家の求めているものと異なっていたり、或いは作品が生理的に求めている自然なテンポというのが存在して、それは必ずしも作曲家が示しているテンポとは限らないこともあるのです。

私はこれまで100曲近く初演を手がけ、誰も聴いた事が無い曲を、作者に質問をしながら、少しでも彼らの意図に沿える様に再現してまいりました。このたびのベートーヴェンの第九も心持ちは同じです。

傑作としてレパートリー化している作品というのは、初演では味わうことのできない「自由」があり、幅広い解釈が許されると考えています。その感覚が私にとって新鮮です。演奏も創造行為の一貫であって、曲を分解し再構築する過程で、論理性や有機性を理性的に把握する私と、感覚的に捉える私が、いまもせめぎあっております。

その結果を8月1日にみなさんにお示しできればと願っております。
どうかご期待ください。皆様に当日、お目にかかれることを楽しみにしております。 

2015年7月6日
阿部加奈子