【メッセージ】「真夏の第九こうとう2015」に寄せ、指揮者・阿部加奈子よりメッセージが届きました!

「真夏の第九こうとう2015」に寄せて(15年5月10日)

いよいよ、5月10日(日)10:00より「真夏の第九」公演のチケットが一般発売されます。(ティアラこうとうチケットサービス03-5624-3333)
フランスより、阿部加奈子から本公演の意気込みについて、メッセージが届きました!

日本のみなさんこんにちは!!いかがお過ごしでしょうか?

私は目下パリでうららかな春の日々を満喫中です。眩しい太陽の光に照らされながら青空に向かってぐんぐん枝葉を広げる木々のエネルギーに驚嘆し、街中にそこはかとなく漂う花や蜜の香りにうっとりし、生命の息吹に五感をくまなく呼び覚まされる、そんな幸せな毎日です。

さて、いつも私の活動を見守り応援して下さっているみなさんにご報告したい事がございます。

日本を離れて18年(通算では20年目になります)。パリを拠点とし、主に西ヨーロッパで活動を続けて来た私ですが、縁あってこの夏東京で正式な日本デビューをさせて頂くこととなりました。

日本デビューをさせて頂くだけでも光栄なことですのに、デビュー演奏会のプログラムが、なんとベートーヴェンの交響曲第九番!あまりに驚いたので、慌ててルイージ師匠に相談したところ、師匠も慌てておられました(笑)。 

ヨーロッパでは近現代、特に新作の初演を指揮させていただくことの多い私がベートーヴェン作品を?しかも第九の指揮とは晴天の霹靂!と最初は思ったのですが、よく考えてみると偶然ではないような気がして来ました。というのも、大阪にいる私の両親は共に合唱指揮者でして、昔から「一万人の第九」の開催時期が近づくと、合唱リハーサルの指揮・指導にあちこちまわっておりました。私も度々両親にくっついて弟や妹と一緒にリハーサルに参加し、ソプラノパートを歌ったものです。なので「第九」は私にとって、家族との思い出の一部でもあるわけです。

それから、私には中学の頃初めて読んで以来すっかりハマってしまい、その後幾度となく読み返し、旅行鞄には欠かさず忍ばせ、もはや人格の一部と化してしまった一冊の本があります。ロマン・ロラン著「ジャン・クリストフ」。ベートーヴェンの一生をモデルにして書かれたと言われるこの大河小説を繰り返し読みながら、思春期の私は「私もジャン・クリストフのようになりたい!」と固く決心をしました。芸大付属高校時代にはこの本を下敷きにして「ベートーヴェン物語」という脚本を書いて、文化祭で上演もしました。

その後ロマン・ロランの祖国フランスに渡りそのまま住み着いてしまった私ですが、渡仏20年目にして「原点に還れ」という啓示を受けたような、そんな不思議な感覚にみまわれております。

ベートーヴェンの第九交響曲を私の拙い文章で語ることは、余りにも恐れ多くて出来ません。この作品には、あらゆる言葉を超えた崇高な「何か」があり、それは人間の心が根源的な部分で必要としているものなのだと思うのです。200年も前に生きた1人の作曲家が、彼の創り出す音楽世界を通して時空を超えて私達に「何か」を伝え続けるというのは、考えてみれば奇跡的なことですよね!偉大な芸術家達の作品のおかげで人類はどれだけ励まされ、心豊かに暮らせている事か。

このような至上の傑作を指揮させて頂ける幸運に目眩がしそうな私です。支えて下さっている多くの方々へ心からの感謝を込めて、真摯に取り組んで参りたい所存です。沢山の方々にベートーヴェンが作品に託した「何か」を誠実に伝える事が出来れば、そしてそのことでみなさんが幸せを感じて頂ければ本望です。どうぞみなさん、宜しくお願い致します!

8月1日にみなさんとお会い出来る事を心待ちにしつつ、精進を続けます。
どうぞみなさん、健やかな日々をお過ごし下さいね。

阿部加奈子